福岡大学医学部 心臓血管外科

入局・研修について
TRAINING

先輩の声

早麻 政斗Masato Hayama

医師5年目、福岡大学病院心臓血管外科に入局して3年目

 初めまして!私は医師5年目、福岡大学病院心臓血管外科に入局して3年目になる早麻 政斗と申します。

まず私は心臓血管外科の道に進もうと決心したのは初期研修医終わりかけでした。もともと手術に携わる科に進みたい、また救命に携われるような科に進みたいと思っておりましたが、どこに進むか決めかねていました。初期研修時のローテーションで心臓血管外科をローテートした時に自分の道はここしかない!と思い、バタバタと心臓血管外科に入局をしました。
 他科の先輩、同級生や後輩、学生さんに最初に言われることは忙しくないですか?です。忙しいです。でも忙しさを凌ぐやり甲斐がここにあります。手術に携わり、術後の全身管理に携わり、その後のご自宅への退院までサポートをする。毎日充実した疲れを味わっています。環境に恵まれ、やめたいと思ったことなど1度もありません。

頼れる兄貴肌の先輩方が沢山います

 ここで福岡大学病院の心臓血管外科の魅力を説明したいと思います。
まず入局者が多すぎないことが挙げられます。私は入局以来大学病院で勤務しておりましたが、2年間で症例は400例以上の症例に入りました。執刀も機会があれば経験させてもらっています。これは同年代が多数属していないからこそ経験できていることだと思っています。仲間は大事です。小さい頃から仲間に色々助けられて今の私がいると思っています。しかし私は心臓血管外科の同期はいません。でもその分頼れる兄貴肌の先輩方が沢山います。気軽に相談でき、困ったときには格好良く助けてくれます。これも当科の魅力です。

様々な心臓血管外科領域に必要な経験を積めています

 現在心臓血管外科3年目の私が具体的にどのようなことをしているかをお伝えしたいと思います。
開心術:開胸から人工心肺に乗せるまではさせてもらっています。また症例は多数前立ちで経験させていただいているので、視野展開から細かいことまで丁寧に指導をいただいています。また、冠動脈バイパス術においては大伏在静脈、橈骨動脈のグラフトをほぼ全例で採取しています。
腹部大動脈:腹部大動脈ステントグラフトの実施医の資格を4年目の時点で取得することができ、指導医の先生方の指導の元執刀させていただいています。開腹による腹部大動脈人工血管置換術の執刀もすでに経験しました。末梢血管:当院ではバイパス術や血管内治療も行なっており、大半の症例は執刀させていただいています。その他様々な心臓血管外科領域に必要な経験を積めています。
 私はこの福岡大学病院心臓血管外科に入局して大正解だったと思っています。
心臓血管外科に興味がある方は、まず当科に見学来てみてはいかがですか?当科の魅力をお伝えすることができると思います。

清水 真行Masayuki Shimizu

東京で3年間の研修を終えた後、母校である福岡大学へ入局

 はじめまして。外科道と心臓に興味を抱き、東京で3年間の研修を終えた後、母校である福岡大学へ入局いたしました。日本人には古来より独自の美学や哲学が備わっております。心臓血管外科医はartisticな領域であり、職人気質で高度な再現性を要求されます。昨今の医療の現況に鑑みて、最先端の治療をアップデートしていく義務が我々にはあります。福岡大学では臨床および学術に注力し、大学院への道や、留学に関しては国内海外問わず扉が開かれております。八面六臂の活躍が期待されており、此の上ない環境が整備されております。人間として、医師として、さらなる高みを目指していきたいと考えております。

伊東 千早Chihaya Ito

榊原記念病院での研修を終えて

 私は初期研修終了後の2015年、福岡大学心臓血管外科に入局しました。
そして翌年(卒後4年目~6年目)からの3年間(2年間を成人心臓外科、1年間を小児心臓外科)を、榊原記念病院で研修させていただきました。榊原記念病院は成人/小児ともに国内トップの症例数を誇る施設でありながら、スタッフ/レジデントは少なく、非常に多くの症例を経験することができました。毎日開心術に入り、術前/術後/病棟管理、抄読会や学会準備を行いながら当直/緊急手術に対応する毎日で、気づくとあっという間に3年間が経っていました。そんな溢れるほどの症例のなかで、最も学んだことは『絶対に妥協しない姿勢』でした。医療者側がどのような状態であれ、常に患者様にとっての最善は何なのかを考え行動することの大切さを学ぶことができました。

  • ・内科的治療なのか手術なのか
  • ・どのような手術プランにすべきなのか
  • ・どうすれば手術をベストな状態で迎えられるのか
  • ・最善の手術をするにはどうするか
  • ・この1針をどのように運針すべきなのか
  • ・手術を1分でも短くするためにできることは何か
  • ・1日でも早く退院できるようできることは何なのか

 同じ症例は一つとしてなく、常に対峙しながら最善を追い求めていました。また、かけがえのない仲間たちと出会うことができました。術者の大先輩から同期に至るまで、常に助け合い/支えあいながら切磋琢磨し、毎日毎日、朝から朝までを過ごせた仲間たちは、自分の人生の一番の財産になったように思います。あの人のようになりたい、あいつに負けたくない、、、、人を動かすのは人なんだと学びました。

榊原記念病院で学んだことすべては、いまの自分の礎となりました。今後はこの礎をもとに、より一層精進していきたいと思います。

留学体験記

尼子 真生Mau Amako

~フランス・リール大学血管外科留学記~
留学まで

 わたしは、2001年久留米大学外科に入局し、2年間の外科研修を終了後、大動脈の治療に興味があったので、心臓血管外科の大学院に入学しました。当時、久留米大学の心臓血管外科は青柳前教授を始めカナダ、ドイツ、イギリス、アメリカなどに留学した先輩方が所属されていました。
 そのころは、漠然と海外に留学したいなぁと思っていました。大学院生時代に、当時ドイツのBad Oeynhausen Hospital(1991年に1年間で148例の心臓移植を行い、史上最多記録としてギネスブックに登録)に留学されていた先輩のもとを訪ねました。いま思えば、この訪問が留学への最初のきっかけとなった気がします。
 その後は、臨床の忙しさにかまけて海外留学のことは、諦めていました。しかし、2014年2月に転機がやってきました。2012年から福岡大学に国内留学していたときのことでした。熊本で日本心臓血管外科学会総会が開催され、その招待講演で来日されていたStéphan Haulon教授との出会いでした。Haulon教授は、フランスのリール大学病院 血管外科(Centre Hospitalier Régional Universitaire de Lille; 以下CHRU)、大動脈センターの教授で、ステントグラフト(大動脈瘤を切らずに治す血管内治療として日本では最初の治験が1990年に開始)の領域で世界のtop surgeonとして君臨されており、その招待講演では、なんと胸腹部大動脈瘤、大動脈弓部の大動脈瘤の治療をステントグラフトで治療するという内容でした(fenestrated, branched endograft)。日本では、ステントグラフト治療でもsimple EVAR(endovascular aneurysm repair), TEVAR(thoracic endovascular aneurysm repair)といった大動脈の分枝にかからないステントグラフトの治療しか承認されてなく、これほど衝撃的なことはありませんでした。その年の4月、7月にHaulon教授の病院(CHRU)に見学に行き、実際に留学することを決意しました。CHRUには過去に日本人が誰も留学した経緯がなく、渡仏するための手続き等には戸惑うこともありましたが、和田秀一教授のお力添えのおかげで、2015年の2月から1年間、フランスのリール大学病院 血管外科(CHRU)への留学の機会をいただきました。

リール・フランス(Lille, France)について

 リールは、フランス北部、ベルギーと国境を接するノール県の県庁所在地で人口は約23万人の都市(フランス第10の都市)。パリから車で北に2時間、ロンドンまで電車(ユーロスター)で1時間、ブリュッセル(ベルギーの首都)まで電車(TGV)で30分、アムステルダム(オランダの首都)まで電車(タリス)で2時間30分とヨーロッパの中心として注目を集めている都市です。

Centre Hospitalier Régional Universitaire de Lille; CHRU

 CHRUはノール県の中核病院であり、なかでもステントグラフトの症例が約300例/年、fenestration, branch graft deviceの症例が、約100例/年に行われている世界有数のhigh volume centerです。Haulon教授のご好意により、当施設の心臓外科の手術(1500例/年)、経カテーテル的大動脈弁置換術(transcatheter aortic valve replacement; TAVR、胸を開かず、また、心臓を止めることなく、「人工弁」を患者さんの心臓に装着できる血管内治療法)の手術を見学させてもらいました。圧倒的な症例数と日本では未承認のdeviceを体験することができました。また、留学中にはcase reportの1st authorとして一編、original articleのco-authorとして二編の論文に関わる機会を与えて頂きました。
 ステントグラフト、TAVRといったものは、最先端の治療であり新しいデバイスの進歩が著しいのですが、この領域においても、基本的な知識、基本的な外科的手技が大切であると痛感しました。

 留学中は異文化での困難な生活、差別、言葉の壁を実感し、諸先輩方の偉大さを認識させられました。フランスでの生活は、はじめは戸惑いましたが、仕事は九時五時で残業なし、土日は完全に休みで日本では考えられないくらい家族と一緒に過ごすことができました。世界一バカンス好きのフランスは、年に5回のバカンスが義務付けられており、バカンス中はヨーロッパの世界遺産を堪能しました(留学中、イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン、ノルウェイ、オランダ、ベルギーに旅行)。

最後に

 留学の機会を与えてくださいました和田秀一教授をはじめ、福岡大学の医局員、久留米大学の田中教授、諸先生方に心より感謝申し上げます。1年間の留学でしたが、手術はもちろんのこと、異文化の中での生活を通して多くの事を学ぶ機会を頂きました。また、留学中は病院に行くこともなく私に付いてきてくれた妻、息子に感謝します。

留学中の業績
  • 1. Total Endovascular Aortic Repair in a Patient with Marfan Syndrome. Mau Amako, MD, PhD; Rafaelle Spear, MD, PhD; Rachel E Clough, MD,PhD; Adrien Hertault, MD,PhD; Richard Azzaoui, MD; Teresa Martin Gonzalez, MD,PhD; Jonathan Sobocinski, MD,PhD; Stephan Haulon, MD, PhD. Annals of Vascular Surgery, 2017.
  • 2. Inner-Branched Endografts for the Treatment of Aortic Arch Aneurysms After Open Ascending Aortic Replacement for Type A Dissection. Charles P. E. Milne, MBBS (Hons), FRACS (Vasc), Mau Amako, MD, PhD, Rafaelle Spear, MD, PhD, Rachel E. Clough, MRCS, PhD, Adrien Hertault, MD, Jonathan Sobocinski, MD, PhD, Wendy Brown, MBBS (Hons), PhD, and Stephan Haulon, MD, PhD. Annals of Thoracic Surgery, 2016.
  • 3. Changes in Renal Anatomy after Fenestrated Endovascular Aneurysm. RepairB. Maurel, Y. Lounes, M. Amako, D. Fabre, A. Hertault, J. Sobocinski, R. Spear, R. Azzaoui, and Stephan Haulon, MD, PhD. European Journal of Vascular and Endovascular Surgery, 2016.

桑原 豪Gou Kuwahara

~イエール大学血管外科留学~
卒業から入局まで

 平成16年度福岡大学を卒業し、福岡大学筑紫病院で研修医生活を送り、福岡大学心臓血管外科に入局しました。当時の田代 忠教授のすすめもあり、平成22年より大学院(再生移植講座 小玉教授)にて基礎研究をはじめましたというより、まずは研究テーマ探しからでした。
 大学院前の臨床では田代教授による冠動脈バイパス術の手術症例が多く、来る日も来る日も静脈を採取する時期があり、その時の「はたして冠動脈が動脈硬化で悪くなった患者さんから採取した血管がどれほど有効なのか、人工血管があればより手術が簡素化され、患者さんへの侵襲も軽くなるのではないか」という疑問から小口径人工血管の研究に興味を持ち、生体吸収マテリアルを作製し提供してくれるベンチャー企業を探し、ウサギの頚動脈を使った実験を開始しました。なかなかモデル作製がうまくいかず苦労しました。ただその間に分子生物学的な実験方法を、博士研究員の方にマウスの扱い方から手取り足取り教えて頂きました。あっという間に1年経過して、教官の小玉教授(当時准教授)から、実験モデルが確立しているモデルを使った実験も平衡してやるように言われました。そこでマウスの虚血肢モデルを使って、リンパ管新生因子として知られていたVEGF-Cの血管新生効果に関する実験も行いました。結果的には虚血肢モデルを使用した血管新生研究で学位を取得することができました。論文をまとめ、初めての国際学会(SVS Vascular Annual Meeting 2012)で発表させて頂く機会を頂きました。学会直前には小玉教授がアメリカにいらした時の共同研究者の前での予行をハーバード大学やNIHで行わせて頂き、大変貴重な経験をさせて頂きました。本番の発表では座長に質問攻めにあい、成功とは程遠い結果となり、小玉教授に慰められながら帰国したことを今でも鮮明に覚えています。
 大学院生活が終わりに近づいた年末に、田代教授から「留学してみてはどうか、まずは自分で留学先を探してみなさい」と言われ、国際学会で質問攻めにされた時の座長であったイエール大学血管外科Alan Dardik教授(当時は准教授)の元へ駄目もとで留学をお願いしたところ、すぐに返信があり留学を受け入れて頂きました。その後、ビザの申請やら助成金の獲得で苦労しましたが、2013年4月から2年間、イエール大学血管外科へ研究留学することになりました。

イエール大学への留学して

 イエール大学はアメリカ東海岸のConnecticut州ニューヘイブンにあり、ボストンから南へ車で3時間、ニューヨークから北へ車で1時間30分ほどのところに位置していました。ボストンやニューヨークなどの大都会とは違い、程よい田舎でしたが、中規模都市で全米ワースト2に入ったことがあるくらい治安は良くありませんでした。夜間、帰宅時などは大学が雇っているYale Policeによるdoor to doorの送迎がIDカード1枚でいつでも利用可能なシステムが整っており、またいつ、どこで発砲事件や強盗事件が起きているかメール通知が毎日のようにありました。2〜3回、ライフルを所持した強盗が逃亡しているため、街中の建物から外出できず、Labに5時間ほど閉じ込められたこともありました。そのため、家族で留学されている日本人の多くは危険なdowntownを避け、閑静な住宅地に住んでおられました。
 LabはYale-New Haven Hospitalに近接しており、4階建てのビルまるごとVascular biologyに関係するLabが20近く入っており、Dardik Labは外科医6人と外科レジデント3人(Yale外科レジデントは全期間7年間でそのうち2年間はLabに所属し研究が義務付けられていました)で構成されていました。いろんな研究室がありましたが、Vascular Biology and Therapeutics Programに所属しており横の垣根はすごく低く、共同研究も多く行われていました。Labのメインテーマは静脈グラフトをバイパス術などで動脈環境に置いた際の血管の分子生物学的変化についての研究でした。僕自身のテーマは血管狭窄に関係する細胞外マトリックスの研究でマトリックスの主要成分のmajor receptorであるCD44に着目したものでした。なんとか結果は出たものの、論文執筆に時間がかかり帰国直前になってボスに論文を提出できました。その後の追加実験では東京大学血管外科から留学されていた橋本拓也先生には多大な面倒をかけてしまいましたが、なんとか形にすることができました。当初より2年間の研究留学と決めていたこともあり、なんとか一つでも足跡を残そうと必死でした。これまでの自分の人生でこんなに辛く、そして楽しかった2年間はなかったかと思います。

研究留学できて良かった

 今回の留学では、血管外科医であり科学者であるAlan Dardik教授の元、血管生物学の研究ができたことはもちろん、Scienceに対する真摯な姿勢を学ばせて頂きました。さらに、フランス・中国・エジプトから集まった血管外科医や優秀な外科レジデント(現在はCleveland Clinic, University of North Carolinaの血管外科fellow, University of Pennsylvaniaの心臓外科fellowとなっている)との出会い、東京大学血管外科の山本先生や橋本先生と共に仕事ができたことは僕の財産となりました。留学前は研究留学よりも臨床留学がしたいとばかり考えていましたが、帰国後の臨床ばかりしている今となっては本当に研究留学できて良かったと思っています。これから留学を少しでも考えている後輩たちには少しでもチャンスがあるなら是非、飛び込んで頂きたいと思います。

最後に

 最後になりましたが、学位論文から留学準備まで全面的にバックアップしてくださった再生移植講座の小玉教授、快く送り出し帰国後も受け入れてくださった田代教授・和田教授をはじめとした医局員のみなさんに心より感謝申し上げます。